特集!

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鹿児島県の温泉湧出量は2011年3月現在、約200,000リットル/分。温泉地数100、源泉総数約2,800、温泉を利用した宿泊施設が407、公衆浴場の数は約560。(平成23年3月末環境省調べ)湧出量は大分、北海道に次ぐ全国3位で泉源の数は大分に次いで全国2位。また、鹿児島市に関して温泉を利用した公衆浴場数は全国1位とまさに温泉王国。
『六三四城』管理人が温泉王国かごしまで「見て」「聞いて」「感じた」事を特集として紹介。鹿児島県内の温泉施設、温泉宿泊施設の“旬”な情報、穴場の温泉情報をお届けします。

湯ノ池地獄・白水越地獄

2012年1月に霧島山中の2つの温泉、湯ノ池と白水越を訪問した。きっかけは2011年末、お世話になったテレビディレクターの言葉だった。
「湯ノ池温泉って知ってます?」
鹿児島の温泉を走り周って10年になるが初めて聞いた温泉名だった。ディレクターは以前、湯ノ池を取材したことがあったそうだが視聴者への配慮(事故、遭難など)から放送出来なかった事を話してくれた。O.A.出来なかった幻の温泉・・・この目で見たいと思うのは温泉馬鹿には必然であった。

地獄へ続く道

管理人は湯ノ池を目指し、1月某日霧島に向かった。情報はディレクターから伺ったものと自身で調べた文献、そしてNETの情報。既に行っている温泉マニアがいる事に唖然としたがNETでは場所の特定は不可能であった。
当然、これまでの温泉探し同様の単独行動である。たかが温泉なのだが山中の温泉、地獄探しは危険を伴う。過去の経験上、こういった無謀な『温泉攻め』は冬場に行うことにしている。
理由は以下のとおりである。

・草木が枯れ視界が得やすい
・気温が低いため湯煙を確認しやすい
・夏期と比べると風が強いため硫化水素ガスが停滞しにくい
・冬期は脱水症状になりにくい
・毒蛇との遭遇がない

 何れも過去に体験した苦い経験からである。それくらい気付けよと思うかもしれないが温泉探しを甘く考えて失敗を重ねた結果冬場を選んでいる。しかしながら寒さと遭難の恐怖は常にあり、湯ノ池に向かう途中の山道(道なき道も)を何度も確認し、風景を頭にたたき込みながら進んだ。GPSや防毒マスクの必要最低限の機材、そして何よりも登山のベテランでない管理人だから尚更である。情報によると湯ノ池まではひたすら悪路で石が散乱しているとの事だった。しかし舗装がされていないダートではあるが目標地点らしき所まで楽に進めた。この時点で気づくべきだったのかもしれないが・・・。但し、雪で1度スタックした事だけは付け加えておこう。

おそらく温泉付近であろう場所に到達した為、車の窓を開けた。瞬時に硫化水素臭が漂ってきたので車を路肩に止め、歩く事とした。聞いていた情報とはかなり違うのだが『臭い』を完全信じきっていたのである。

車を止めた場所から約5分で湯ノ池と信じた場所に到着した。30分ほど歩くと聞いていたのだがあっさり着いた事が不思議であった。しかし、眼前に広がる地獄の様に疑問は消し飛んだ。地獄周辺はこれまた教えていただいた雰囲気とは異なり、また手持ちの資料との相違もあったが、それでもココを湯ノ池と確信し、危険地帯(表面上は歩行可能な土の上)を歩き出した。

足を高温湯泥に取られないよう慎重に進んでいたが一瞬の油断で地中に足がめり込んでしまった。泥の温度は100℃を超えるためかなり焦ったのだがSWATT仕様ブーツを履いていた御陰で火傷の被害は免れた。

その後はさらに注意を払いながら落ちていた太い木の枝を地面に刺しながら進み、30分ほど地獄周辺を探索し、次の目的地である白水越地獄(白水越温泉)を目指すためココを後にした。


写真左:地獄泥沼
写真右上:泥に突っ込んだ足と足跡
写真右下:後に続くもののために突き刺した枝


写真上:湯ノ池へ続く道
写真下左:第2目標地点にいたシカ
写真下右:雪山行軍中

次の目的地は湯ノ池から地図上はさほど距離もなかったので容易に見つけられると思っていた。しかし中々それらしきものが見つけられない。凍った硫化水素臭のするプールを発見したものの明らかに違う。可能性のある道を全て回るも目標の場所に行き当たらないのだ。地図を見ると完全に目的地から遠ざかっている事に気がついた。もう一度資料を見直し、ディレクターから伺った話を思い出し、地図と対峙すると起点となる山道入口からもう一本の道がある事がわかった。
そう、湯ノ池地獄と思っていたのは白水越地獄(温泉)だったのである。通りで容易に見つけられた訳である。

謎が解け、意気揚々ともう一本の道を進み車を走らせるも束の間、目の前には聞いていた細い悪路が伸びていた。「車通れるのか?」そう思うほどの山道、かつて口之島の東地域、燃岳を周回する悪路に匹敵する道と雪に躊躇した。一瞬戻ろうかとも思ったのだがここまで来て後には引けない・・・これが山で遭難する理由なんだろう。と感じるも二度と進みたくない道であったため強行する事tとした。離合する場所も無かったいうのも事実である。雪と岩の転がる道を慎重に進み、湯ノ池探索第2目標である伐採エリアに着いた。周囲は先程の白水越とは比較にならない硫化水素臭が漂っていた。そんな中誰もいないはずの山中に何かしらの視線を感じた。周囲を見渡すと野生のシカがこちらを見ているのである。霧島ならではの光景だったが多分シカには大きな迷惑で物好きな奴がいるもんだと思っていたに違いない。
そこから『臭い』の元を探す為、再び雪山を歩きだした。

歩きだして暫くは道らしきものがあったのだが鬱蒼と生い茂る杉林入った途端、状況は一変する。『臭い』も益々強くなりオアシスを求める砂漠の旅人のように朦朧と進む管理人であったが周囲の確認は怠らなかった。目印となるマーカーを準備しなかった事に後悔したが、時すでに遅しである為、気を張って池へと下っていった。山肌を下る事約20分、杉林の奥にキラキラ光る場所が目に飛び込んできた。
湯ノ池地獄に到着である。聞いていた場所に間違いなく池一面から湯煙が立ち上っていた。ようやく目的の場所に着いたのだが長居は出来ないとスグに感じた。突き刺すような硫化水素臭が辺りに充満していたからである。臭いがしているうちにこの場を去ろうと(※硫化水素は嗅覚を麻痺させる事もあるため)周辺をバタバタと調べた。小枝を振り払い、枯れ木をなぎ倒し、踏みつけて進む黒一色の管理人はまるで本物のクマのようであっただろう・・・。
入りたいなど思いもせず若干頭痛も出てきたため湯ノ池探索を早々に打ち切り帰路についた。


写真左上:湯ノ池周辺の山道この辺は序の口
写真左下:ボロボロになったブーツ(ガムテ応急処置)
写真右:湯ノ池地獄

〜感想〜
2年ぶりに履いたハイテックマグナムストームは今回の『温泉攻め』で再起不能に・・・。
緊急時におけるガムテープの重要性を再認識したのだがお気に入りのブーツだっただけに非常に残念である・・・。

今回、知らなかった温泉の存在を教えて下さったWディレクター、O.A.されなかった取材に同行し泥に足を呑み込まれ大やけど負ったカメラマンさんにも感謝であった。

しかし、湯ノ池地獄は管理人の中でお願いされなければ「二度と行きたくない温泉」になった事は言うまでもない。